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ファイブフォース分析の基本知識と問題例

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2023-05-072023-04-28

簡単に言うと

ファイブフォース分析は、特定の業界の収益性を5つの競争要因からみる一種の分析手法です。

もっと俗な言い方をすれば、この業界は儲かる、儲からないというのを5つの競争要因(買い手、売り手、業界内の競合、新規参入、代替品)によって見極めるフレームワークがファイブフォース分析ということになります。

事業環境分析は、外部環境分析と内部環境分析に分けらますが、ファイブフォース分析は外部環境分析に分類されます。

ファイブフォース分析イメージ図

ファイブフォースモデル、5F分析、五力分析などと呼ばれることもあります。

ポーターとファイブフォース

ファイブフォース分析は、ハーバード・ビジネス・スクールの教授であるマイケル・ポーター氏の1979年の論文「How Competitive Forces Shape Strategy」や80年の著作「競争の戦略」によって世に知られるようになった分析手法です。

ポーターは他にもバリューチェーン分析や3つの基本戦略で知られ、現代の最も著名な経営学者の一人となっています。

ポーター「競争の戦略」

5つの力

ファイブフォースの各フォースは以下の通りとなります。

業界内の敵対関係

ある業界に既に参入している企業同士でどれだけ熾烈な競争が繰り広げられているかをみていく視点です。

業界内の競争を激しくさせる要因としては、以下のようなことが考えられます。

  1. 同規模の競合企業が多数存在する
  2. 市場規模の成長率が低い
  3. 製品を差別化するのが難しい
  4. 生産能力を細かい単位で増やすことができない
  5. 固定コストが高い
  6. 業界から撤退しにくい

こうした条件を満たす業界は、競争が激しくなりがちで過度な値下げが行われるなどして収益性が低くなる可能性が強くなります。

売り手の交渉力

ここでいう売り手とは自分のビジネスに必要な財やサービスを販売する業者のことです。製造業なら自社製品の生産に必要な部品や材料の供給業者が売り手ということになります。

売り手の力が強いと高値で売り付けられるなどして自社の収益を低下させる原因となりえます。

売り手の交渉力を高める要因としては、以下のようなことが考えられます。

  1. 供給者側の業界が小数の企業に支配されている
  2. 供給者が特殊な技術を有するなどして製品が高度に差別化されている
  3. 供給者にとって購入者は重要な販売先ではない
  4. 供給者が川下に垂直統合してくる可能性がある

買い手の交渉力

自社の製品の買い手が強い交渉力を持つと安値で買いたたかれるなどして収益性低下の原因となりえます。

買い手の交渉力を高める要因としては、以下のようなことが考えられます。

  1. 販売先が少数しかない
  2. 製品が差別化されていない
  3. 販売先にとって自社製品が大きなコストとなっている
  4. 購入者が川上に垂直統合してくる可能性がある

代替品の脅威

自社製品持つが対象とする顧客のニーズと同じようなニーズを満たす代替的な製品が存在すると既存製品との競争が激化し収益に悪影響を及ぼす可能性があります。

例えば、CDショップビジネスは音楽ダウンロードや音楽ストリーミングという代替的なサービスの登場によって大きなダメージを受けました。

新たな代替品の登場は、テクノロジーの進歩に起因している場合も多く、事前に予想するのは難しいですが、機能的価値で売っている製品程影響を受けやすいといえます。

新規参入の脅威

新たなプレイヤーが業界に参入してくると競争が激しくなり、収益性を低下させる原因となりえます。

新規参入が容易かどうかは参入障壁と呼ばれ、以下のような要因でその高さが決まると考えられます。

規模の経済は働くか

規模の経済とは、生産規模を増やす程、生産コストが低下するという現象を指す言葉です。

全ての業種で、規模の経済が働くわけではなく、逆に大規模にやるほど効率が低下する規模の不経済が働くこともあります。

一般的にはある一定の規模までは規模の経済が働くが、最適な生産量を超えるとコストが増大するというモデルが想定されます。こうした状況下での新規参入を考えると、参入企業は既存企業にコストで対抗するために最適な生産量まで生産を行う必要に迫られますが、その量が巨大だと業界全体で供給過多に陥り利益を出せなくなります。こうした事態が想定できる場合、新規参入者は利益を確保できる見込みが薄くなるので規模の経済は参入障壁となりえます。

製品は差別化されているか

既存の製品が高い知名度やブランド、顧客ロイヤリティを有している場合、この形成には通常膨大なコストや時間がかる上、それぞれに固有のもので模倣が困難なため参入障壁として機能する可能性があります。

例えば、新規参入者がいくら安価なバッグを生産したとしてもそれがエルメスのバッグの売り上げに影響を与えることはないでしょう。顧客の認知の中では、恐らくこれらは全く別のジャンルのものとして認識されており、機能的には同じ製品でも競合することはほとんどありません。

経験効果を享受できるか

経験効果とは累積生産が増えると製品一単位当たりのコストが低下するという経験則です。経験効果を享受できる場合、早くから生産を行って累積生産を積み上げた者がコスト上有利となるので参入障壁として作用しえます。

参入の際に巨額の投資が必要か

規模の経済が働かないとしても参入の際に巨額の投資が必要な場合、そのような資金や信用力を有する事業者は限られるので参入障壁となります。

独占的な技術があるか

既存企業が特許など保護された独占的な技術を有しており、それが製品に重要な役割を果たしている場合、新規参入者はこれに対抗するために代替技術を開発するなど多大なコストを要するので参入障壁となります。

政府による規制があるか

例えば、電力、金融、医療、通信などの業界には様々な規制があり、これをクリアしないと事業を行えないので政府の規制は参入障壁となりえます。

具体的に考えてみる

いくつかの業界をファイブフォース分析の観点で簡単に考えてみました。

飲食店業界

業界内の敵対関係

小規模な事業者が多数存在しており、業界内の競合は激しいといえるでしょう。

売り手の交渉力

食品卸売業者には、大企業もありますが中小企業も多く特別交渉力が強いとはいえないでしょう。少数の売り手しか扱っていない特殊な食材を使用している場合は、売り手の交渉力が問題となるかもしれません。

買い手の交渉力

普通の飲食店は一般的消費者が相手なので買い手の交渉力が強いということはないでしょう。

代替品の脅威

お弁当や総菜などの中食ビジネスは飲食店の代替となりえます。

新規参入の脅威

規模にもよりますが飲食店は数百万円から開業することができ、新規参入の脅威は高いといえるでしょう。

テレビ業界

業界内の敵対関係

事業者数が限られるので業界内の競争は比較的穏やかといえるでしょう。

売り手の交渉力

テレビ局にとっての売り手は、番組制作会社や芸能事務所となるでしょうか。一部大手芸能事務所は力がありそうですが、制作会社はテレビ局系列の会社も多く特別交渉力は強くなさそうです。

買い手の交渉力

テレビを視聴している人はテレビ局に直接お金を払っているわけではないのでテレビ局にとっての買い手は広告枠の購入者となります。広告を出す企業は多数ありますが、広告代理店業界は電通と博報堂で半分以上のシェアを占めるとされるので、買い手の交渉力比較的強いといえるかもしれません。

代替品の脅威

アマゾンプライムビデオ、ネットフリックス、YouTube、ABEMAなどのインターネットを使った動画サービスはテレビの代替品といえるでしょう。

新規参入の脅威

使用できる周波数チャンネルは有限であり、国によって割り当てられているので新規参入の脅威は少ないでしょう。

他のフレームワークとの関係

よく知られた環境分析のフレームワークにSWOT分析というのがあります。

これは企業の置かれている状況を強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)という4つの視点でみていくものです。あまり具体的ではありませんが、総合的な枠組みといえます。

プラス面マイナス面
内部環境強み弱み
外部環境機会脅威

SWOT分析との関係でいえばファイブフォース分析は機会や脅威を理解するための分析といえるでしょう。他に外部環境をみていくためのフレームワークとしては政治・経済・社会・技術の観点で環境を分析するPEST分析がよく知られています。

対して、バリューチェーン分析やバーニーらのリソースベースドビュー/VRIO分析は自社の強み、弱みを理解するための分析と位置付けることができます。

ファイブフォース分析に対する批判

ファイブフォース分析や「競争の戦略」で説かれてる3つの基本戦略(コストリーダーシップ、差別化、集中)の言わんとすることは、競争の激しくない市場を選び、その中で競合に対して優位となる位置取りをしろというものでしょう。それゆえポーターらの派閥はポジショニング学派とも呼ばれます。

これに対しては以下のような批判があります。

  • 5F的な観点からみて厳しい業界でも高いパフォーマンスを上げている企業が存在する
  • 個々の企業の持つ資源や組織力が考慮されていない
  • 形式的過ぎて多様な現実を捉えられていない

このような批判はありますが、現在でもメジャーな分析手法の一つであることは確かでしょう。

確認問題

ITストラテジスト令和3年午前2問6

ファイブフォース分析は,業界構造を,業界内で競争が激化する五つの要因を用いて図のように説明している。図中の a に入る要因はどれか。

ファイブフォース分析

ITストラテジスト試験午前2過去問 令和3年春(解説付き)

https://ja.mondder.com/questions?id=51

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中小企業診断士企業経営理論令和2年第3問

「業界の構造分析」の枠組みに基づいて考えられる、売り手(サプライヤー)と買い手(顧客)との間での交渉力に関する記述として、最も適切なものはどれか。

代替的な購入先が増えるということですから買い手の交渉力は高くなります。
互換性が高いとすぐに乗り換えられるので買い手の交渉力が高くなります。
乗り換えが困難になるので売り手の交渉力は高まります。
ハーフィンダール指数とは市場の集中度を表す指数で、独占状態では1となり、競争が広くいきわたるほど0に近づきます。ゼロに近づくほど多数のプレヤーがおり競争が激しいということになるので、売り手の交渉力は低下します。

中小企業診断士企業経営理論過去問 令和2年

https://ja.mondder.com/questions?id=84

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中小企業診断士企業経営理論令和4年第3問

組織内外の環境を分析するための枠組み(フレームワーク)に関する記述として、最も適切なものはどれか。

強度な持続的競争優位を得るためにはこれらの要素全てが満たされている必要があります。
3CのCは、Customer、Competitor、Companyです。
バリューチェーンでは、販売・マーケティングでは支援活動ではなく主活動に位置られています。
ファイブフォースは業界の成長性を決定する要因ではなく業界の競争環境を決定する要因です。

中小企業診断士企業経営理論過去問令和4年

https://ja.mondder.com/questions?id=19

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